松原正樹が発起人となって、当代きってのギタリストを集めたギター・アルバムを作る……。この話を最初に聞いた時、素敵じゃないか!ととっさに思った。松原といえば、レコーディング曲はゆうに1万曲を超えるというトップ・セッション・ギタリスト。長いキャリアの中で、ギター・サウンドの移り変わりをつぶさに見つめ、また自らもトレンドを作り出してきた張本人である。アルバムのテーマは、“タイムマシン”だというから、ますます興味をそそられた。

 70年代のフュージョン/クロスオーバー・ブーム華やかなりし頃、“ニューヨーク”をテーマに第一線のギタリストが集結し、松原も参加した『NEW YORK』というギター・アルバムがあった。今回の“TIME MACHINE”はそこからヒントを得たものだという。“人間は過去や未来には行けないけれど、音楽の世界では行き来は自由。ギタリストの皆さんに、好きな時代の好きな世界をモチーフに作曲してもらいたい”(松原談)という発想のもと呼びかけを始め、その主旨に賛同する8人のギタリストが集まった。岩見和彦(NANIWA EXP)、野呂一生、chokkaku、梶原順、真鍋吉明(the pillows)、西村智彦(SING LIKE TALKING)、田中義人、安達久美という確かな実力を持つ面々である。ギター・コンピというと、とかく参加者のジャンルが偏りがちだが、ふたを開けてみれば、大ベテランから新進気鋭の若手まで、松原を音楽的にリスペクトする多彩な顔ぶれが揃っている。このノンジャンルな感じがいい。いま僕の手元にはいくつかのデモバージョンがあるが、どれも力のある楽曲ばかりで、そのクオリティの高さに驚く。ソフト&メロウに歌う岩見作品、フレットレス・ギターで江戸時代を表現した野呂作品、ブレイクビーツが響き渡る田中作品、グルーヴ満載のchokkaku作品、一筆書きで弾ききったというソロが冴え渡る梶原作品……。みな、確かなテクニックを持つが、決してそれをひけらかすことなく、それぞれが思い思いのアプローチで、時間旅行を楽しんでいる。そうここは、楽しみながらギターで歌い、踊る場なのだ。同じギターでもこれだけ多彩な表現方法があることに驚嘆せずにはいられない。のび太の部屋の机の引き出しを開けたら、素敵なグルーヴが飛び出してくる。そんな場面を想像しながら、ワクワクして待とう。

ギターが歌う、ギターが踊る。タイムマシンに乗って。

2011.4.3 野口広之/ギター・マガジン編集長

ギター・マガジン・ブログに当日の

レポートが掲載されています。

特設サイトでは事前に収録された二人のセッション&

コメント動画公開中です!